コーチングの神髄
小さなクリニックから大きな向上をもたらす
かつてNick Bollettieriコーチから教えられたことを、コーチングの視点として私は大切にしてきたことがある。それは、「小さなクリニックから大きな向上をもたらすこと」の視点である。
もう25年ほど前になるか、ニックから明日の午前5時にコートに来るよう誘われた。私は何故か眠れずに早朝の4時にコートに向かっていた。ニックのプライベートレッスンと言うより何か特別な強烈な雰囲気がコートを包んでいた。アフロアメリカンの少女にコーチしていた時に、ネット近くにいるニックはその少女を呼んで、グリップをほんの数ミリだったと思うぐらいのマイナーなチェンジを行った。そして、ベースラインに戻った少女は見違えるほどの素晴らしいフォアハンドを立て続けに打った。
私たちコーチは、まず、生物学・解剖学・物理学をまとめたバイオメカニックスに、教育学、発達心理学、社会学、トレーニング論、トレーナー論、コミュニケーション論、数学等々の学際的な知識から得る智慧がクリニック前に必需とされる。そして、テニス理論とクリニック技術を経験を長く重ねて正しいことを至適なレベルに高め、「直観力・直感力」を必須として、プレイヤーに接するのである、と。私は思う。マクロからミクロを探るような人生をコーチはさまようのだ。
ニックは65歳の時に、5 Keys to Tennisを著してテニス界にセンセーショナルな理論を唱えた。テニスコーチングにおいて理論とは、誰にでも共通する現象を捉えて組み立てるものである。まさしく、誰にでも、さらに言うならば、いかなるタイプ、フォームであろうとも、それらを尊重しながら法則性を伝えてテニスのゲーム展開を見たのである。
その本でニックは、これから自分はどのような道を進むのかとセンテンスを残している。
しかし、あの少女は一瞬にして神篝のようなテニスに豹変したのは、小さなことまでも見つけてくれるニックへの感謝のエネルギーが、自らの向上をもたらしたのではないかと最近思うようになった。もちろん既に上げた科学と経験の間の些細なズレを、瞬く間に修正するニックのコーチの眼がそうさせているのであるが。
コーチとプレイヤーにある互いの信頼感は、いずれかテニスの世界を変え、自分の人生も変えてしまう。
そして、私としては、「小さなクリニックから大きな向上をもたらすこと」を求めて四半世紀。だからコーチとしてのミッションが堪らないほど楽しい。